2026年5月3日
こーべ通信:函館より
Cobe Associe は、戦略と技術の問いを現場で検証可能な仮説に変える。
一昨日土曜から北海道・函館に来ています。人生初。最高気温が13度と肌寒く、冬・寒冷地が好きな私は元気を取りもどしています。先週の税務調査で削られた心が少しずつ回復していくのを感じる…サッポロクラシックがうまい。ラキピ本店の行列とんでもねーな。ハセガワストアのやきとり弁当は至高。北海道は大地が強い。
小学校の時に訪れた福島で、お土産予算ほぼすべてを使い切って白虎隊木刀を買いました(両親にはあきれられました)。戊辰戦争ではついつい旧幕府軍に肩入れをしてしまうので、五稜郭にはグッとくるものがあります。内地での戦いに敗れた人たちが散り散りになりながらも北に落ち延び、行き着いたのがこの箱館です。1868年12月に日本初の選挙を実施して榎本武揚を総裁とする蝦夷共和国(箱館政権)を樹立するも、明治新政府はこれを認めず翌年3月には征討軍を派遣、5月には降伏に至りました。五稜郭タワーに上ると歴史の丁寧な展示があります。本史正史には残りづらい歴史こそ、現地で学ばなくてはいけません。
箱館戦争のもろもろをみて感じたのは、”恥”への感性についてです。恥への感性の違いが、旧政府軍各々の生き様を決めたんだなと。恥と言っても、見た目が悪いとか、勉強ができないとか、そんなことではありません。「私をして〜のようになっているのは許せない」「〜できないなら一族の汚点だ」のような、行動に紐付く恥の意識のことです。
ゴールデンカムイでまた脚光を浴びている新撰組副長・土方歳三や浦賀奉行所助力として黒船に乗り込んだ中島三郎助などは、武士としての恥を大切にして意志決定をしました。同志が倒れる中自らのみが生き残ることを恥とし銃弾飛び交う最前線に身を投じました。一方で榎本や大鳥圭介(陸軍奉行)、荒井郁之助(海軍奉行)などは、国家としての恥、旧政府の恥を雪ぐことを大切にした結果、生き残ることになります。野蛮な新政府に外国列強との交渉は任せられない、江戸幕府が積み上げてきたすべてをゼロにしてはならない、と。。黒田清隆率いる新政府軍や、ちゃっかり租借地を得て違約金で大儲けしたプロイセンの貿易商ライノルト・ガルトネルを含めて、どこに自らの美学を持つか、何を恥と考えるか、異なる強烈な信念が交錯した地が1868年前後のここ函館だったのです。
我が兵は限り有るも、官軍は限りなし。一旦の勝ち有りと雖いえどもも、その終には必ず敗れんこと、鄙夫ひふすらこれを知れり。然るに吾れ任ぜられて、若し敗れるようなことあれば則ち武夫の恥なり。身を以てこれに殉ずるのみ。 /土方歳三
(私たち旧幕府軍の戦力には限りがあるが、新政府軍はどんどん戦力を投入してくる。一日の勝利があったとしても最終的には敗れることを私は覚悟している。しかし私は大任を得ているのだから敗北は武士の恥であり、命をかけて戦い抜き死ぬのみである)
恥の感性は、AIの浸透に応じて、だんだんに希薄になっていくはずです。強烈ながらも多様な恥の感性があった時代から、同質で薄っぺらい恥の感性に収束していく未来がすぐそこに迫っています。恥、というには自ら責任を引き受けることでしか生み出されないものですが、AIにいろんな作業や思考を外注した結果、「AIを叩いたらそう出てきたので出しています」「AIがやったことなんだからしょうがない」と恥ずかしげも無くいう人が出てきてびっくりする日々ですが、”人工知能”という技術の性質上、それはしょうがないことです。恥の意識を教えることは、誰にもできません。
AIについて語るとき、Taste/美学について論じる記事をたくさん見かけます。しかし私たちは、人間を中心として考える時、美学というよりもっとプリミティブな”恥”のことから考えるべきではないでしょうか。そして恥との付き合い方を考える場所として、函館以上に適した場所もそれほどないだろうと私には思えるのです。『灰になっても自分を貫け』と言った土方歳三が眠るこの土地で、自らが貫くべき何かを探してみるのはいかがでしょうか。東京・大阪から1.5時間のフライトです。温泉に浸かりながら垢を雪ぎ、裸で恥と向き合ってみませんか。
お便りをお待ちしています。
💼心惹かれたもの
Bang&Olfsen Beosound A9:このスピーカーを置いているバーがあれば通い詰めちゃう。 link
ハセガワストア やきとり弁当:ホテル最寄りのセイコマがハセガワストア提携店で、名物やきとり弁当注文に長蛇の列ができていました。昨日は1日で2回食べました。タレを自作して神戸で再現したい。 link
✏️読んだ/読んでいる
📃記事
日本の鉄道網が世界最強である理由:日本の鉄道は旅客輸送キロの28%を占め、先進国で最も高い割合を維持している。JR東日本だけでは英国全体の4倍の乗客を運び、公的補助金なしで十分な営業利益を出している。1950年代以降、多くの国で鉄道網が衰退する中、日本は逆方向に進んだ特殊な国家である。この特殊性を文化差に帰する説明は誤り、と著者は明言する。日本人も車を愛しているが、卓越したシステムが先にあるから電車を使うだけだ。事業構造、土地利用規制、民営化の順序が公共政策の出力を決めた。「日本人だから」を「日本の制度だから」に置き換える、構造優位の解説が素晴らしかった。link
7,000ドルでハリウッド映画をつくる:1991年ロバート・ロドリゲスは7,000ドルで映画『エル・マリアチ』を制作した。通常数十万ドルかかるフィルム素材費を回避した方法は、ハッカー思考と呼ばれる認知様式に近い。不足は発明の父である。 link
禁止が欲望を逆転させる/反トランス法とポルノ検索数の意外な相関:Matt KleinがPornhubの年次レポートを5つのトレンドで読み解いた。コールドプレイのコンサートでKiss Camが不倫カップルを抜いたことが話題になった直後、そのサイトでは浮気や上司・部下関係に関連する検索が軒並み前年比2〜5倍に急増した。文化的事件とポルノ検索の連動が、数値で記録される。非エロカテゴリのポッドキャストや音楽の検索も大幅に増え、利用実態の変容も読み取れる。表に出にくい欲求が、検索ログという形で別の方向から測定される。禁止と欲望は逆相関ではなく、相互喚起の関係にあるのだと事実が教えてくれる。link
時間は本当に”線”なのだろうか?:哲学史家のエミリー・トーマスは、年表と線形的な時間観が比較的新しい発明だと指摘する。1765年にジョゼフ・プリーストリーが世界初のタイムラインを作ったとき、その合理性を延々と説明する必要があった。時間を線として捉える考えが普及して、たかだか250年である。ダーウィン進化論、4次元空間の数学、タイムトラベルSFなどがだんだんに社会に浸透させてきた論理概念だ。それ以前は循環的時間観、絶対時間、カントの実在性への懐疑が共存していた。わたしたちの労働管理はこの線形時間観に強く依存している。「時間は中立だ」という常識を、歴史的偶然として読み直すと、進歩史観との距離が取れるかもしれない。link
購読者500人で年収90万ドル稼ぐニュースレターライター:メディアはこれまでPVやUUなど、とにかく規模を争ってきた。しかし最近、購読者わずか500〜2,000人程度のナノニュースレターの高収益性が注目を浴びている。記事の中で紹介されているThe Bear Caveは購読者1,300人程度だが年間収益55万ドル(約8千万円)、Stratecheryは2,000人で年20万ドルを生んでいる。ニュースレター一般の開封率が平均43%に留まる中、テーマを絞り込んで深い洞察を放つニッチ媒体は60%超を維持しているという。B2Bスポンサーは1枠100〜500ドル、消費者向けの数倍の単価で取引されている。ニッチトップの威力は製造業だけでは無くメディアにも通用する。そんなことを教えてくれる記事。 link
「今回は違う」と信じるのは人類が1万年間繰り返してきた最大の嘘:1637年のチューリップ球根から2026年のAI株まで、金融バブルの記録が並んでいる。各バブルの度に「今度は違う(This time is Different)」という叫びが広がり、しかし毎回同じ結末を迎えた。チャールズ・マッケイの1841年のバブル研究書がロンドンの金融家の間でベストセラーになった直後、同じ読者がラテンアメリカの架空の採鉱投資に金を注いだ皮肉もある。文明を動かしているのは旧石器時代から続く人間脳というOSであり、政治体制も技術も表層のアプリケーション層にすぎない。人間OSにはパッチをあてることはできない。ゆえにバグは更新されない。1万年後には何かが変わっているだろうか。link
AI非ネイティブのNotionが、なぜAI革命の中心に立てたのか:AIネイティブ企業が生き残るという観測の中で、Notionは既存ノートアプリのAI化に成功した数少ない例として注目されている。2018年にEvernoteの後継として台頭し、技術的優位ではなくブランドとコミュニティで成長した。2021年にデカコーン入り。最近のCustom Agentsは、利用者が長年蓄積してきたコンテキストを基に動く設計になっている。AI時代の競争優位は、モデル性能の高さではなく、ユーザーが既に持ち込んでいる文脈の量で決まるとの意見もあり、Notionはその意味で先頭を走っている企業の一つかもしれない。技術リードよりブランドが先だった企業に、後からAIが乗ってくる構図である。link
AIは解決しない。むしろ「不確実性の不確実性」が10年続く:ケビン・ケリーが、AIが前進したとしても不確実性自体が減ることはないという観察を出している。2029年までにAGIの可否と雇用への影響が見えるという主流の見立てを、彼は否定する。AIが進むほど新しい問いが生まれ、既存の問いは答えられないまま形を変え続ける。米中の覇権交代、ソーシャルメディアによる既存メディア秩序の解体、移民問題をめぐる国内政治の混乱が同時進行する。不確実性は個人レベルにまで浸透する、と語る。「いつ落ち着くのか」を待つ姿勢がもっとも非合理になる、時代の入り口にわたしたちはいる。link
富が無意味になる場所で:著者は2018年、Amazon創業者ジェフ・ベゾス主催のプライベートリゾート・キャンプファイアに招待され、80人以上の著名人が集まり、毎朝の講演と夕食で”世界をより良くする方法”を議論した経験を書き記している。私にもいつか、こんな日が来るのだろうか。 link
📙本
薔薇の名前:エーコ、とんでもない作家だ。ポッドキャストの課題本として読んでいるのだけれど、〆切を設けずにじっくり読みたくなっている。知性ってなんだろう。宗教って何だろう。正当性ってなんだろう。 link
翻刻 世界 創刊号 昭和二十一年一月号:今年最も良かったことの一つが「岩波・世界の購読を始めた」こと。戦争で荒廃した日本をみて、感じて、そのときに”本質は道義にあり、その生命は創造にある”と言い切るその胆力。私には、これほど強く打ち出せる信念が果たしてあるだろうか。 link
「今や力強い文化国家建設の第一歩が踏み出されねばならぬ。文化は単なる享受ではない。その本質は道義にあり、その生命は創造にある。この文化の権威と自主とが力強く恢復されねばならぬ」(「発刊の辞」より)
📻観た/聴いた
布施明『My way』:函館の港を観ながら、自然と「いま船出が近づくこの時に〜」歌い出していました。前向きないい歌詞だよな。
大沼国定公園:函館市内から車で40分ほど。ただただ美しかったです。お気に入りのぬいぐるみたちと写真撮影もできたので大満足。秋川雅史『千の風になって』ゆかりの地でもあります。 link
🧩感じた/感じている
私の恥の感覚、美学は「笑え、そして希望せよ」に集約されます。
「悪いことをするなら仕事でやるように。私事でする勿れ。良いことをするなら私事でするように。仕事にするには惜しい」
函館の市バスが事務所に戻るとき、行き先表示が『すいません回送です』となっていて笑ってしまった。北海道の人はどこまで丁寧なんだ。誤る必要ないのに。
🍵関心事
次の旅先は大分・別府。APUのキャンパスに行ってみたい。
「大学で連続講座を持つ」「メディアで連載する」「カンファレンスで登壇する」あたりをやりたいのだけれど、誰にどう営業すれば実現するんだろう。
🥑活動報告
今日このあと神戸に戻り、ベーグルを焼き、仕事をして、明日のテニスに備えます。人生を前に進めよう。
テニス事業、対面販売では一定成果が出ていたのですが、初めて通販で売りが立ちました。会ったこともない方から注文が届くこの不思議。嬉しいものですね。
夏頃に、いろいろ大きめの意志決定をすることになりそうです。お楽しみに。
お便りをお待ちしています。


