試考錯誤:直感・“違和感”センサーをどう武器にするか
スポーツの世界、あるいは真剣勝負が繰り広げられるあらゆる部活動において、時折、常人には理解し難い閃きを見せる人物に出会うことがある。「なぜ、あの瞬間にあのパスが出せるのか」「どうして、そんな独創的な手が思いつくのか」「どこから、あのような表現が生まれてくるのか」。彼らの頭の中を覗いてみたいと、凡百の我々は思う。学業の成績が良いか悪いか、そんなことは些かも関係がない。その鋭敏な直感力、あるいは肌感覚で捉える「違和感」こそが、彼らを唯一無二の存在たらしめ、時にそれだけで十分に社会を渡っていける武器となる。
興味深いことに、華やかなコンサルティングファームの門を叩く者の中には、いわゆる「夜のお仕事」を経験してきた人々が少なからず存在する。彼女ら、彼らが顧客の深層心理や組織の力学を瞬時に見抜く力、その「肌感覚」の鋭さには、いつも驚かされる。それは、日々、多様な人間の欲望や感情の渦の中で、全身全霊で「直感」を研ぎ澄ませてきた賜物なのだろう。理屈や分析では決して辿り着けない、生々しい人間理解の深みがそこにはある。
この種の直感、あるいは「違和感」を捉える能力は、一朝一夕で身につくものではない。それは、まるで職人が長年かけて道具に馴染み、素材と対話するように、無数の経験と試行錯誤の積み重ねによって磨き上げられるものだ。厳しい練習の中で培われた身体感覚、勝負どころを見極める嗅覚、あるいは、接客の最前線で鍛え上げられた対人センサー。これらはすべて、論理や知識だけでは説明しきれない、身体知としての直感と言える。
しかし、多くのビジネスの現場では、この貴重な能力が十分に活かされているとは言い難い。むしろ、「客観的データに基づかない意見は却下」といった風潮の中で、個人の直感や違和感は、主観的で曖昧なものとして軽視されがちだ。その結果、磨き上げてきたはずの「武器」を自ら封印してしまっている人も少なくないのではないか。それは、あまりにもったいないことだ。
では、この「直感という名の“違和感”」を、いかにしてビジネスの現場で武器として活かすことができるのだろうか。
まず、自身の直感や違和感を無視せず、大切にすることだ。何か腑に落ちない、言葉ではうまく説明できないが何か違う、と感じたならば、それは重要なサインかもしれない。その違和感の正体を探ることから、新たな視点や仮説が生まれることがある。『ダイアローグ・イン・ザ・ダーク』のように、視覚情報が遮断された中で他の感覚が研ぎ澄まされる体験は、自身の内なる声、すなわち直感に耳を傾ける良い訓練になるかもしれない。
次に、その直感を「言語化」し、「仮説」へと昇華させる努力をすることだ。直感だけでは、他人を説得したり、組織を動かしたりすることは難しい。しかし、その直感の背景にある微細な情報や経験を丁寧に掘り起こし、論理的な言葉で説明可能な仮説として提示することができれば、それは強力な武器となり得る。例えば、「顧客はこう言っているが、本当のニーズは別のところにあるのではないか」という違和感を、「過去の類似ケースや顧客の非言語的なサインから推察するに、このような仮説が考えられる」と具体的に示すことができれば、議論の質は格段に向上するはずだ。
そして、多様なバックグラウンドを持つ人々の直感を尊重し、それを組織の知恵として結集させること。スポーツマンの勝負勘、芸術家の美的センス、接客業で培われた対人洞察力。これらは、従来のビジネスエリートが持つ論理的思考力とは異なる価値を持つ。画一的な思考様式に囚われず、多様な認知スタイルを積極的に取り入れることが、イノベーションを生み出す土壌となる。
直感とは、決して非論理的なものではない。それは、膨大な経験と情報が無意識下で高速処理された結果、表層意識に「違和感」として現れるものだ。その微かなシグナルを捉え、言語化し、行動へと繋げる力。それこそが、AI時代において、人間に残された重要な競争優位性の一つなのかもしれない。せっかくあなたが人生を通じて磨き上げてきたその鋭敏な感覚を、どうか眠らせないでほしい。それは、あなただけの、そして組織にとってのかけがえのない武器なのだから。
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