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試考錯誤

試考錯誤:「論理の罠」と「直感の囁き」

2025.06.04

仕事の現場、特に我々のような論理を武器とする稼業においては、「徹底的に論理を追求すべし」という強迫観念にも似た空気が支配的だ。データに基づき、ファクトを積み重ね、一分の隙もないロジックを構築することこそが正義。そんな環境下では、ふと胸をよぎる「直感の囁き」など、非科学的で取るに足らないものとして、いとも簡単に無視されてしまう。しかし、本当にそれで良いのだろうか。

思い返せば、キャリアの節目となるような重要な意思決定や、困難なプロジェクトにおけるブレークスルーの瞬間には、必ずと言っていいほど、「直感の囁き」が存在していたように思う。それは、データがまっすぐに示す方向とは微妙に異なる、しかし妙に腑に落ちる感覚。あるいは、論理的には説明がつかないが、なぜか確信に近い手応え。これらを無視し、論理のみを突き詰めた結果、袋小路に迷い込んだ経験は一度や二度ではない。

もちろん、論理的思考が重要であることは論を俟たない。特に複雑な問題を解きほぐし、関係者間の共通認識を醸成する上では不可欠な道具である。楠木建先生が『ストーリーとしての競争戦略』で説くように、人を動かす戦略とは、論理的整合性はもちろんのこと、聞き手が「なるほど、面白い」と膝を打つような「物語」の力を持つものでなければならない。その物語を紡ぐ上で、論理は骨子となる。

しかし、その論理という名の骨格に血肉を通わせ、魂を吹き込むのは、往々にして直感なのではないだろうか。我々の精神は整合的なものだけで成り立っているわけではない。むしろ、一見非合理で統制の取れない「何か」が、創造性の源泉となることがある。仕事の現場で言えば、それは長年の経験によって培われた暗黙知や、多様な情報が複雑に絡み合った末に生まれる「大局観」のようなものに近いのかもしれない。

問題は、この「直感の囁き」に、いかに耳を澄ませるか、である。多忙な日常業務の中では、意識的に時間を確保し、内省する機会を持たなければ、それは雑音にかき消されてしまう。ずいぶん前から、会議以外の仕事時間に耳栓をつけている。これは物理的な雑音だけでなく、思考のノイズを遮断し、自身の内なる声に集中する助けになっているように感じる。

書籍『WEIRD「現代人」の奇妙な心理』で指摘されるように、我々現代人は極めて分析的な思考様式に偏っている。この「論理偏重」の罠から逃れるためには、意識的に異なる視点を取り入れたり、一見無関係な分野からのアナロジー思考を試みたりすることが有効だろう。例えば、全く異なる業界の事例や、歴史上の出来事、あるいは芸術作品に触れる中で、ふとした瞬間に直感が閃くことがある。

論理は、我々を目的地まで導いてくれる地図のようなものだ。しかし、その地図に描かれていない近道や、予期せぬ宝のありかを教えてくれるのは、しばしば直感という名のコンパスなのである。重要なのは、地図を精読するスキルと、コンパスの微細な揺れを読み取る感性の両方を磨き続けること。そして、時には地図を一旦脇に置き、コンパスが指し示す未知の道へと踏み出す勇気を持つことではないだろうか。書くことを通じて自身の直感を客観視し、論理と接続する試みもまた、このバランス感覚を養う上で有効だろう。

論理の光が強ければ強いほど、その影もまた濃くなる。その影の中にこそ、直感という名のダイヤモンドが隠されているのかもしれない。仕事の現場において、我々は常に論理という名のサーチライトを手に進む。しかし、時にはその光を消し、暗闇に耳を澄ませることを忘れてはならない。そこにこそ、真のブレークスルーへと繋がる「直感の囁き」が溢れているはずだ。

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