試考錯誤:矛盾の向こうに本質が待っている
我々の住むこの世界は、一見すると矛盾に満ち溢れている。理論と実践の乖離、理想と現実のギャップ、あるいは、Aという事象とBという事象が同時に真であるという、受け入れ難い状況。日常の些細な出来事から、国家間の複雑な関係に至るまで、辻褄の合わない事象は枚挙にいとまがない。多くの人々は、このような「矛盾」に直面した瞬間、思考停止に陥るか、あるいは反射的に距離を置こうとする。酷い場合には、それを嘲笑の対象とし、自らの理解の範疇に収まらないものを異質なものとして排除しようとさえする。
しかし、私はこう考えるのだ。その一見矛盾に見える事象、その辻褄の合わないところにこそ、物事の本質へ至る扉が隠されているのではないか、と。矛盾とは、既存の理解の枠組みでは捉えきれない「何か」が存在するというシグナルである。それは、我々の認識をアップデートし、より深い洞察へと導いてくれる貴重な機会なのだ。
組織の健全な発展のためには「離脱の自由」と「発言の機会」という、時に相反する要素が共に必要とされる。あるいは、イノベーションの世界では、「既存事業の深化(Exploitation)」と「新規事業の探索(Exploration)」という、資源配分において明確なトレードオフ関係にある活動を両立させる「両利きの経営」が求められる。これらはまさに、矛盾を直視し、その緊張関係の中に最適解を見出そうとする試みと言えるだろう。
我々は、矛盾を前にして逃げない。思考を停止させない。むしろ、その矛盾をじっと見つめ、なぜそれが存在するのか、その背後にはどのような力学が働いているのかを、粘り強く問い続ける。それは、時に不快感を伴う知的格闘であるかもしれない。しかし、その格闘の先にこそ、新たな発見や創造性が生まれるのだと信じている。
「事実とは何か、解釈とは何か。そして、それらはどのように区別されるのか。」E・H・カーが『歴史とは何か』で問いかけたように、我々が「事実」として認識しているものですら、ある種の解釈や価値判断を含んでいる。矛盾を感じるということは、自身の解釈の枠組みが揺さぶられている証拠でもある。その揺らぎを恐れず、むしろ積極的に受け入れ、自身の思考のOSをアップデートし続ける姿勢こそが、不確実な現代を生き抜く上で不可欠なのではないだろうか。
「幼児には議論で勝てない」というセス・ゴーディンの指摘は示唆に富む。矛盾を前にして感情的になったり、思考を放棄したりするのは、ある意味で知的な幼児性に他ならない。私たちは、複雑な現実を複雑なままに受け止め、その矛盾の中から新たな意味や価値を紡ぎ出す「実践的想像力」を鍛え続けなければならない。
矛盾は、思考の出発点である。それは、我々を安住の地から引き剥がし、未知なる領域へと誘う羅針盤なのだ。多くの人が見過ごし、あるいは目を背けるその場所にこそ、本質へと続く道が隠されている。だからこそ我々は、矛盾を恐れず、むしろそれを歓迎し、試行錯誤を繰り返しながら、その向こう側にある景色を目指す。そこから、すべてが始まるのだ。
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