試考錯誤:”組織事業修理業”としてのコンサルティング
今週後半(4/16-18)に考えていたことのメモです。
気付き
多くのコンサルタントは、新しい戦略を語るとき、まるで設計図を広げる建築家のように振る舞います。彼らが見せるのは何を”新たに”建てるのか。新規事業のアイディア、インセンティブ制度、5カ年の経営計画――いずれも聞こえは派手です。しかし、最近の私は昔気質の整備士に近い仕事をしているのだと気づきました。すぐに剥がれるコーティングを施すのではなく、車体の下にもぐり込み、油をぬぐい取り、「かつて滑らかだったエンジンがなぜ咳き込むのか」を確かめる仕事。繫ぎを着てやる仕事です。
理想と現実
人でも組織でも、最初は「世界をこうしたい」という理想を掲げます。そして、その実現を助ける仕組み(ルール、指標、儀式などなど)を打ち立てる。ところが、現実はどこまでも気まぐれです。法規制が変わる。売上目標が外れる。キーパーソンが退職する。単発の出来事に過ぎなくとも、積もればエンジンの芯がずれ、ついには甲高い異音が聞こえます。でも計器が警告灯を点けるより、ずっと前から耳の良い人にはわかるのです。
その異音を「新しく何かをはじめなくてはいけない!」という号令だと誤読するのもしょうがないことです。新機能を追加しろ! KPI を増やせ!嵐のなかでバラストを投げ捨てるような高揚感がありますが、そうして増えたプロセスは船底にフジツボのように張り付き、誰もスイッチの意味を覚えていない――そんな未来が待っています。そして悪徳コンサルタントや広告マンが、あなたに忍び寄ってくるのです。
修理と創造
修理は創造より小さく見えますが、実は逆です。新プロジェクトを派手に立ち上げるチームと、地道に組織・事業のゆがみを直すチームを並べて2年ほど観察してみましょう。確実に、後者が会社を正しい軌道へと導いてくれます。根本の仕組みが健康でなければ、どんな新施策も力を伝えられません。
想像のための修理について、私が重要だと感じるのは、ざっくり三点です。
- 優れた行動・人物の評価基準(≠人事評価)
スループットを褒めれば人は仕事をするようになり、見栄を褒めれば人は演技します。 - 日々運営されるゲームのルール
規則は堆積物のように溜まりつづける。目的を失ったルールは削除する。会議の一つ仕方取ってみても、誤ったルールに基づいて運営されているところが多いです。 - メンバーのエネルギーレベル
モチベーションはスローガンで上下するものではありません。何より大事なのは、チームのエネルギー総量を大きくすることです。全力疾走を求めるなら、コースを整え、給水所をおき、日々の微細な摩擦を取り覗いてあげること。
地味に聞こえるでしょう。けれど三つが噛み合うと、組織・事業は一気に前進し出します。
空気の差
壮大な構想をうたうプロジェクトチームのワークショップに参加すると、ホワイトボードは新しいアイデアでいっぱいになっています。一方で組織・事業の修理を担当するチームの会議は、概ね沈黙から始まる。対照的で、前者の方が望ましく思えることでしょう。しかし壊れたシステムの下で始まるものに先はありません。地道な修理活動の先にこそ、組織が求める何かがあるのだと信じています。私は夢を語る80 ページのスライドより、この空気を置き土産にしたい。それは PDF より軽いのに、はるかに失われにくい価値だからです。
今年の課題:「修理」コンセプトを広げる
多くの人は、新しいものを作りたがります。私が苦手だった広告代理店出身者は”NEW is better than GOOD”と臆面もなく言い放ちました。こんな社会にあって、修理の重要さは簡単には広がっていきません。ログファイルからノイズを読むエンジニアのように、組織のきしみを聞ける人材が要ります。だから今年は二つの軸で動いていこうと思います。
- 修理技術の言語化
整備士はエンジン音で学びます。コンサルタントの教材は会話です。インセンティブの腐蝕をどう嗅ぎ分けるか、会議の頻発を恐怖の痕跡としてどう辿るか、メトリクスが偶像化した瞬間をどう見抜くか――暗黙知を何かしらの手引きに落とし込みます。 - 修理コンサルギルドの形成
整備士一人で守れるのは一つの工場。ギルドなら業界全体を止めずに済む。アジャイルコーチ、プロダクトマネージャー、HR の実務家――呼び名は違えど「修理思考」を持つ仲間たちと叡智を交換し、トルクの総量を上げます。
改めて、修理がなぜ重要なのか
新しい部品を付ければ、マシンは見かけ上モダンになります。けれど劣化したベアリングの上では、すべてが早く摩耗する。修理は寿命を延ばし、弾力を高め、ときに「実は元々の部品でも十分なパワーがあった」と明らかにする。ただ、駆動輪まで伝わっていなかっただけなのです。
修理のように、地味な活動の意義を認める経営者は多くありません。だからこそ、異音を真っ先に聞き取る人が貴重なのです。世の中にはガラス張りのタワーを設計する建築家はそれこそたくさんいます。本当に不足しているのは、つなぎを着てマシンの下にもぐり込み、ネジを締め直せる人。私のように、この役を買って出る人が増えることで、組織は再び自力で未来を組み立てられるようになります。いつか、似非コンサルタントが不要になる日をつくりましょう。
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