ニュースレター】いったん負けよう。
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ここでは、対話という形式のもつ危うさが指摘されている。この二人は議論など始めなければおおよそ意見の一致した仲間であり続けられたのに、対話を通してささいな違いを互いに誇張し合うことで、まったく相容れない二つの陣営の代表者のようになってしまった。こうしたことは対面の場でも起こりうるとはいえ、互いの顔の見えないSNS、特にX(旧ツイッター)では毎日毎時の光景だ。あのプラットフォームで衝突している人びとの多くは、別の場所で出会うなら、穏やかに言葉を交わし合えるのに違いない。
片岡大右『解放的身振りと穏当さの勧め』 世界 2026年2月号 第1002号(岩波書店)p.233
将棋の対局が終わると、対局者はそれぞれ勝者、敗者として盤を挟んだまま一局を振り返る。感想戦といわれる慣習である。真理の探究、技術の向上、読み力の誇示、いろんな目的があるけれど、とある棋士はこの時間を「敗者のためにある」と言った。勝負が決した後に、もっとも生産的で魅力的対話が始まるのだ。当然アジェンダはない。説得する相手もいない。結果は揺るがず、確定しているからこそ、二人は「なぜそうなったか」だけに集中できる。相手の言葉に身を委ね、応答する。相手もまたそれに対して言葉をかえす。本来の意味での対話はこれである。
私たちの普段の対話はどうだろう。自分が「次に言うこと」を準備しながら聞いていないだろうか。反論や疑問がふと頭をよぎり、その処理をしている間、相手の言葉が耳に入ってこないことはないだろうか。自らの動機や利得に基づいた推論が先行し、結論が先にあり、情報を無意識にフィルタリングしていないだろうか。さて、相手から意外な言葉が飛び出して自分の準備が無駄になりそうなとき、すべてを放り投げて相手に応えることが出来ているだろうか。
私はひとりのコンサルタントとして、「話せばわかる」を強く信じてきたし、いまも信じている。だが最近、「話してもわからない・わかってもらえない」なんなら「話せば話すほどわからなくなっていく」領域が広がっているのではないかとさえ感じる。あらゆる所に勝負が持ち込まれた影響だろうか。負けたくない。恥をかきたくない。わかろうとしないことは、いろんなことで優劣がつく時代の防御反応なのかもしれない。(脇道。イランと米国の間で、本当に対話はあったのだろうか。空母打撃群配備やミサイル防衛体制を整えるまでの時間稼ぎだったと見る向きもある)
1932年、五・一五事件。銃口を向けられ「話せばわかる」と言った犬養毅首相はその直後、若手将校の凶弾に倒れた。しかし犬養は、頭部をうたれ、薄れゆく意識の中でも「今の若いモン、呼んで来い。話して聞かせることがある」と女中に言ったという。もしその将校が本当にその場に戻ってきたら、犬養の話をさぞ真剣に聴いたことだろう。そこまでの覚悟を持って話そうとする敗者から出てくる言葉を無視することは出来ないはずだ。
もし本当にわかってもらいたかったら、勝負の土俵から一度降りなければいけないのかもしれない。言論の場で勝つことは、だからどうだというんだろう。言葉で負けたとしても、わかってもらえれば良いシーンはいくらでもあるのだ。トラッシュトークの勝ち負けに拘って武力衝突になったら、基本的に勝者はいなくなるのだ。
「感想戦で一言目を発するのは負けた側」という暗黙のルールが将棋にはある。つくづく、良い習慣だと思う。
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