試考錯誤:AI時代に批評家はいらない
職場でも日常でも、AIの存在が当たり前になりつつある。ある人は検索エンジンの代わりに、ある人は何かつくるときの伴走者として、またある人は自分や他人の意見の議論パートナーとして使っている。一昔前には遊び道具に過ぎなかったはずのものが、実に多様な顔を持つマストツールへと進化した。
AI時代の人間の役割についていろんな意見が飛び交っている。AIによってなくなる/生まれる職業、のような記事が多く生まれ、実際に雇用を絞り込む企業も増えている。AIは変化を起こしつつある。
AIにより、向こう10年で、批評家及び批評家的振る舞いの価値は急激に低下することだろう。
もちろん、トップレベルの批評家は別だ。無数の論点を編み上げ、時代の本質と接続させるような芸当は、AIにはまだ早い。だが、「普通に考えるとこうなるよね」というフィードバックの価値は限りなくゼロになるだろう。多くの人が引用する歴史的な文脈、既にフレームワーク化された思考法に基づく分析、これらはAIの得意技だ。仮に会社の会議でそんなコメントをしてみたとしても、スタッフからすると「そんなことはもうAIと議論して考えているんですよ」となるはずだ。上司や外部コンサルタントはまた別の価値創出ポイントを探さなくてはいけない。
NewsPicksのコメント欄を覗いてみればいい。選挙や新規事業のニュースに、知識のないポジショントークがずらりと並ぶ。「これはAIによる自動生成コメントか?」と見まごう無個性な意見の羅列に、読んでいるこちらが恥ずかしくなる。しかもAIを使えば、この手のコメントの供給は爆発的に増える。需要は消え、供給だけが溢れる。構造的に破綻しているのだ。普通の意見しか出せない批評家たちは、何とかエンゲージメントを高めようと強い言葉に頼るようになる。論理ではなく言葉の口当たり・喉ごしで勝負師はじめている。
普通の批評は価値がない、どころか、有害でありさえする時代になった。
本当に恐れるべき問題は、この影響がつくる側に及ぶことである。インターネットやSNSを通じてあらゆる事が可視化されうる時代において、つくることには、常に見られることがついて回る。そして今、AIを用いることで、誰もがそこそこの批評を生み出せてしまう時代である。これは、つくる人間に大きな心理的負担を生み出すことだろう。
AIは、つくるコストを確かに下げた。しかし同時に一億総批評家社会を促進させてしまった。「こんなコメントをされるのではないか」「あんな人から悪いフィードバックをもらうのではないか」という未来の批判が、あまりに鮮明に見えてしまう。今、起きているのは大批評家時代を超えて、誰もが批評家になれる大批評可時代である。
人間がわざわざ批評家を演じる必要はない。それは視座とセンスが極限まで高まった一流の批評家か、あるいは社会の背景で勝手に動くAI OSに任せておけばいい。わざわざ人前で批評を開陳するのはいっそう野暮である。
批評というノイズの嵐の中で、それでもなお何かをこの世に生み出そうとする意志。不完全さを恐れず、結果を差し出す覚悟を持ったつくる人。それらが一層評価されるべきときである。
世界が待っているのは、つくる人である。
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