試考錯誤:Why/なぜ?は過大評価されている
“なぜ(Why)”の問い、みな大好きです。しかし、少し立ち止まって考えてみましょう。その”なぜ”は、本当に思考を深めているのか。思考しているふりをするための、都合の良い儀式になってはいないだろうか。
陳腐な結論にいきつく「なぜ」の追求を日々目にしています。
- 「なぜ、この製品の売上は落ちたのか?」→「競合製品が登場したからだ」
- 「なぜ、競合製品が登場したのか?」→「この市場に魅力があったからだ」
- 「なぜ、この市場は魅力的なのか?」→「顧客のニーズがあるからだ」
このような問答は、原因を究明しているように見えて、実のところ何も新しい発見を生んでいません。それは分析ではなく、単なる事実の再確認作業です。だからなんやねん、にしかならない。「トヨタはなぜ?を繰り返す」「5回のなぜ」のようなものが社会に広がれば広がるほど、形式だけのなぜが増え、このようななぜの追求があらゆる場に蔓延ることになります。
本当に求めるものを得るためには、なぜを繰り返す回数ではなく、回答の質にこだわらなくてはいけません。質の低い回答が一度でも挟まってしまうと、その後なぜを重ねても意味ある結論に至ることはありません。砂上の楼閣を高く積み上げるようなものです。必要なのは問いの数ではなく、一つ一つの回答の解像度と射程です。
だから何なのか(So What?)に繋がる応え方を
なぜを分析するのは、次の行動を考えるためです。未来のための問いなのです。事業現場で意味あるなぜの問いは、だから何なのか/So What?と分かちがたく結びついています。これは分析から示唆を引き出すための鋭い刃のような問いです。(プレゼン後に「…で?」と言われたことがある人はその鋭さに気づいています)
なぜに対する質の高い回答は、必ず「だから何なのか/So What?」という問いに耐えうる強度を持っています。
例えば、A.O.ハーシュマンが『離脱・発言・忠誠』で示したように、顧客の「離脱」という事象を考えるとき、「なぜ顧客は離脱するのか?」という問いに対し、「品質が低下したからだ」と答えるだけでは不十分です。そこからさらに、「発言/Voiceする機会や文化がなかったために、改善の機会を失い、忠誠心/Loyaltyの高い顧客までもが離脱を選ばざるを得なかったのだ」という構造的な洞察にまで至ることが、質の高い回答と言えるでしょう。この回答は、「だから何なのか?」という問いに対して、明確な方向性を示します。「だから、私たちは顧客が不満を発言しやすい仕組みを作り、彼らの忠誠心に報いることで、安易な離脱を防ぐべきだ」という、具体的なアクションへと繋がるのです。
面白い話をつくる力
良い戦略の背景にある面白いストーリーとは、なぜに対する説得力のある回答と、そこから導き出される力強いSo What?が、一貫した論理で結ばれている状態に他なりません。人々は、単なる分析結果ではなく、その背景にある因果関係の物語に心を動かされ、行動を起こすのです。Why/So Whatを両輪に抱えて良いストーリーは動き出すのです。
なぜを問うことは、物語の始まりに過ぎない。本当に重要なのは、そこから物事の根源的な構造を暴き出し、異分野のアナロジーを援用しながら、いかに豊かで実践的な示唆を紡ぎ出すか、という知的体力こそがあなた自身やあなたのチームに求められています。
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