試考錯誤:小さなチームは脇道で勝負する
田舎道を走っていて偶然見つけた未舗装の脇道で、思いがけず絶景に出会ったことがある。幹線道路のような安心感はないが、そこでしか見られない眺めが広がっていた。小さなコンサルティングチームが歩むべきルートも、それに似ている。クロスレーンのない舗装道路をまっすぐ進む大手ファームの後ろ姿を眺めるより、脇道にハンドルを切ったほうが、はるかに新鮮で破壊的な発見に近づけるからだ。
「サイエンティストの憂鬱」を読んで、改めてこの感覚を持った。
大きなチームは直近の有力な知見に基づいて問題解決にあたるのに対し、小さなチームは忘れられたアイデアや異色の着想を掘り起こし、新しい方向性を切り開くことが多い。科学のエコシステムには両者が共に必要で、小さなチームからは新概念を出していくことが醍醐味かもしれない。大きなプロジェクトが発足する前段階の発見をするというのは、まだまだ個人や小規模なチームが実践できるインパクトのある研究だろう。
最近の研究では、チームの規模が大きくなるほど論文や特許の「破壊性」が下がることが示されている。大人数のグループは最新の有望路線を丁寧に磨き上げる一方で、個人や小規模チームは忘れられた仮説や異色の着想を掘り起こしてまったく新しい方向を切り開く傾向が強いというのだ。人数が1人から50人へ増えると、測定された”disruptiveness”が70%近く低下する――これは科学でもビジネスでも驚くほど普遍的な現象らしい。NatureTimes Higher Education (THE)
コンサルティングの世界も例外ではない。数千人規模の巨大ファームは客船のように安定していて、豊富な資金と人材を投入しながら既存の有望ルートをひたすら拡幅する。彼らが得意とするのは、すでに価値が見えているテーマを“より良く”することだ。重厚な調査チームとグローバルネットワークを駆使するその堅牢さは、小さなブティックでは到底かなわない。しかしいったん舵を切ると転回に半年かかり、思い切った寄り道は構造的に難しい。社内パートナーやディレクターからOKをもらう過程で、奇抜な提案は霧散する。最優秀の人材が集うマッキンゼーでさえ「異論を唱えることを義務」として制度化しなければ難しいのだ。そうしなければ組織の慣性に呑まれてしまうという危機感の裏返しでもある。
一方、5-10名規模のチームには忖度すべき上層部も承認プロセスもほとんどない。奇妙なデータや突飛な発想を翌朝にはクライアントへ持参できる。この俊敏さは、探索試行回数を指数関数的に増やす。もちろん脇道には行き止まりも多い。だが失敗しても U ターンは容易で、撤退コストも低い。舗装されていない道を軽いフットワークで進めるのは、小さなチームだけが持つ天然のアドバンテージだ。
では誰と組むべきか。答えは明白で、メインストリームから外れた挑戦を抱えるクライアントだ。社内で眉をひそめられている新規事業責任者、既存の指標では測れない価値を探しているプロダクトマネージャー、現状の路線ではじきに壁へ突き当たると直感しているリーダー。彼らは大手ファームの安全運転に物足りなさを感じ、自分たちと同じ速さでジグザグ走ってくれる伴走者を欲している。そこに小規模チームが飛び込めば、脇道の景色を一緒に切り拓ける。
ただし脇道の賞味期限は短い。小さなチームが掘り当てたアイデアは、いずれ幹線道路として舗装され、大型プロジェクトが動き出す。その瞬間、ゲームのルールは「規模と資金力」に切り替わる。だから小さなチームは、一つの発見に安住せず、次の脇道を常に探索する習慣を持たなければならない。これは逃避ではなく、戦略的な移動だ。脇道の発見と拡張を繰り返すことで、小さなチームは自らの存在理由を更新し続けられる。
幹線道路の舗装を厚くする大型ファームが必要なのは事実だ。だが幹線を敷く前に、その方向性を示すのは脇道を走る軽い車両である。もしあなたが十人にも満たない仲間と次のプロジェクトを構えているなら、堂々と砂利道へハンドルを切ればいい。轍の揺れと埃の向こうに、まだ誰も見ていない風景が待っているのだから。
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