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試考錯誤

試考錯誤:AI進化は小規模コンサルチームの台頭を促す

2025.04.24

OpenAIのモデルo3が公開された日、私は昔の感覚を思い出した。インターネット回線がISDN/ADSLから光回線になったときだ。帯域が一桁増えると、世界の輪郭は同じなのに手触りがまったく変わる。o3 の推定 IQ が 130(東大入試をそこそこの手応えで通過するレベルという)という話を真に受けなくても、少なくとも「人ひとり雇う」に近い知的資源が数千円単位で API から滴り落ちてくる事実は揺るがない。

そしてこの“帯域の拡大”は、コンサルティングという仕事の構造上、最も小さなチームを力強く押し上げる。

資源制約と AI の逆転魔法

人数が 5~10 名のコンサルティング・ブティックにとって、成長は嬉しくもあり、辛いものでもある。評判が立つほど案件が舞い込み、同時に扱うテーマが発散する。受け切るには人を雇うか外注するしかないが、常勤スタッフを増やせば瞬時に固定費が重くなる。需要が増えるほど首が締まる――これが小規模チームのパラドックスだ。

生成AIがもたらすのは、ここへの“逆転魔法”である。構造化リサーチ、競合比較、ドラフト作成、スライドの骨子設計――人月で換算すればいくらでも積み上がる作業が、プロンプトとサンプル数百円で跳ね返ってくる。大ファームの「若手アソシエイト 3 人月」を、レイトレーシングの GPU を借りるように API クレジットで瞬間調達できるのだから、小規模チームのマージンはむしろ広がる。

トップファームが抱える巨大な「固定費」

もちろんアクセンチュアやマッキンゼーも黙っていない。彼らは膨大なナレッジベースと守秘データを 生成AIに食わせて、社内モデルを鍛えているはずだ。BCGがWaldoのようなリサーチLLMを利用するのは自然な流れだ。在庫が巨大なほど、最適化の余地も巨大。内部知見を AI で瞬時に検索・統合できるなら、提案の質も速度も跳ね上がる。

だがここで”Billability/ビラビリティ”という、コンサル業界特有のメーターが顔を出す。10,000 人のコンサルタントを抱える会社では、一人ひとりの稼働率が収益を左右する。AI が 1 人分の作業を数十分で済ませるなら、同じフィーを維持するためには案件数を増やすか単価モデルを変えるしかない。前者は市場が吸収できないし、後者は値下げ圧力を正面から受ける。AIが盛り上がり続ける中、McKinsey が採用を抑制し始め、逆に BCG が「まだ増やす」と宣言している対照は、まさにこのペインの差分を映す温度計だ。

固定費が大きいほど、AI による工数削減は“リスク”として跳ね返る。人月課金モデルは “速く終えるほど損をする” という皮肉を露呈し始めた。

小規模チームが武器にすべき3つのレバー

  1. マルチモデル・オーケストレーション
    o3 は優秀だが万能ではない。画像、表データ、法規制、業界特化モデル――タスクごとに最適な AI を摘み取って並列させる。この“寄せ集めの管弦楽団”は小さな組織のほうが即興的に組める。
  2. フィーの再定義
    「人月 × 単価」という請負構造を捨て、成果物単位・価値連動型で見積もる。AI による時短を“原価率低下”ではなく“付加価値の純増”として価格交渉に持ち込めば、クライアントにも正当性が伝わる。
  3. “人間にしかできない2割”への集中
    問題の再定義、利害関係者のジャッジ、複雑な政治交渉――ここは依然として人間の領域だ。AI が8割の作業を飲み込むほど、残り2割の希少価値は高まる。時間と注意をそこへ一点投入する。

これからの競争軸は「鋭さ」になる

大ファームは戦艦だ。艦載砲の口径は大きいが、旋回に時間がかかる。小規模コンサルはモーターボートだ。波間を縫い、必要なら陸に揚げ、エンジンをそっくり載せ替えてまた走れる。o3の登場は、この機動力の差を指数関数で拡張するトリガーになる。

市場が変わる局面では、スケールより鋭さが問われる。AI を前提に設計されたオペレーティングモデルは、後付けの自動化では追いつけない速度で学習する。“最適化された大きさ”ではなく、“最速で学び直せる小ささ”が、これからのコンサルティングの勝ち筋になるはずだ。

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