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試考錯誤

試考錯誤:「300万円握りしめて来てください」

2025.05.21

コンサルタントという職業は、もともと“値札のない商売”の代表格だった。これは私の商売観でしかないんだけど、「ご相談内容をうかがった上で、お見積もりいたします」なんて言っているうちは、まだホンモノではない。診療所のカルテみたいに、クライアントごとに異なる症状と処方があるのは確かだが、それでも、○○円頂ければ確実に価値ある仕事ができます、の札は常に持っておきたい。

独立したての頃、私はこの感覚がまったくなかった。「やりたいことはこんな感じなんですが、いくらくらいかかります?」と聞かれると、汗をかきながら「うーんどうでしょうね…いったん松茸梅の3パターン見積もり出しますので…」と濁す。焦っていたときには「予算はいくらですか?」みたいなことを言いそうになったこともある。

そんな私も独立から何年か経ち、最近ようやく値札を貼れるようになった。値段は300万円。生活感覚からするととんでもない金額なのだが、普段お付き合いしている企業からするとなんとも言えないサイズの金額だ。課長決裁の限度額くらいだろうか。「この額を出してくれたら、どんなお悩み事でも必ず何かしらの手応えを返せる」と胸を張れる数字。これが今の私にとっての“正価”だ。

もちろん、相談は幅広く来る。「○○のレポートを調べてまとめてください」「新規事業のアイディアを一緒に考えて」「社内のチームが機能してなくて困ってて…」どれも真剣だし、必要なことだ。でも、よくよく話を聞くと、「3千万・半年かけてと言うけれどまずは3週間設計を真剣にやるのが優先では?」という依頼しようもあれば、「いやいや、それ120万円かけてもなにも産まないですよ」ということもある。成果・費用観バランスがまちまちなコンサル産業で起きがちなギャップである。(なお、前者の情況でまともにそれを正してくれるコンサルタントはほとんどいない)

このとき、「300万円握りしめて来てください」と伝えるのは、ジョークにも聞こえるし、野暮なようでいて、しかし一番誠実なメッセージだとおもう。この発言にどう反応するのか、依頼内容をどう調整しようとしてくれるのか。結果、依頼をくれる人は、真剣に何かを変えたいと思っていて、何かを生み出そうとしている人だけになる。そして、その何かを一緒に定義することこそ、コンサルタントの本分だ。

私は“値段をつける”という行為を通して、ようやく「経営」を始めたのかもしれない。以前は“作業の請負人”だったが、今は“価値の交換者”になりたいと思っている。プライシングとは、つまり「あなたの世界観は、この値段で売れますか?」という問いへの答えである。なので、もしあなたが何かに困っていて、そしてほんの少し余裕があるのなら、まずは300万円握ってきてほしい。それがたとえ、期末余りの何かでも、コーポレート予算の端数でもいい。

こちらとしては、その300万円を、事業の種なり、未来の構図なり、少なくとも「やってよかった」と言える物語に変えて、お返ししたい。

企業概要

Cobe Associeはリサーチ+事業支援コンサルティングを行う会社です。新規事業関連の取り組みやCVC・社内起業支援事務局の支援、スタートアップの戦略検討などを行っています。2018年の創業以来60社を超える企業とプロジェクトをご一緒してきました。

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